《第863話》『戦いの余波』
「っ、何だ!?」
振動。テーブルの上に置かれたコップの水が、細かく波を打つ。
「じ、地震――?」
「――いや」
自然現象とは明らかに違う、大地の表面から起こった衝撃が伝わって来た様子を、この揺れに妾は感じた。加えて、妖気の高まりめいたものも同時に知覚する。
「この妖気、妾とほぼ同じ――まさか、奴が暴れている、のか?」
「奴って?」
「あのどうしてだか未だに消えずに残り続けている――妾にあって妾に非ずなあいつだ」
「えっ、まさかもう一人の、呉葉?」
夜貴の言葉に妾は頷く。この破壊力と妖力は、間違いなく幻影であるにも関わらず妾と同等の力を持つに至ったあの存在のものだ。
「奴が名も無き悪魔と交戦――でもしているのか?」
「ちがう」
「何?」
窓の外をじっと眺めていた遊が、静かにそう呟いた。
「多分、ディアと戦ってる――」
「そう言えば先ほど、こっそり狼山に人形を忍ばせたとか言ってたな。それによって見えているのか。しかし、ディアと戦っている? これまた何故だ」
「それに、多分って――?」
「…………」
相も変わらず遊の顔に表情は浮かんでいないが、どことなくそれは不安げな横顔に思えた。
「遊、夜貴を頼む。妾は様子を見てくる」
「――っ、」
遊が、妾の服の袖をきゅっと掴んだ。その手は弱々しく、そして――震えていた。
「安心しろ」
そんな彼女の手に、妾は己の手を優しく重ねる。
「狼山もディアも、無事に帰らせる」
妾は、妖気の発生源へと空間転移を行う。もしヤツが己の身勝手で暴れているというのならば、それを止められるのは妾だけだ。
全く、あいつは何をしている――!




