《第861話》『狂鬼姫の帰還』
地面が爆裂した。――いや、上空より落ちてきた何かが、アスファルトの大地を割り砕いた。
「樹那佐の嫁、さん――?」
その犯人は、ここにはいる筈のないミス・トラブルメーカー。だが彼女は今、樹那佐についている筈だ。
「人間。妾はその元・鬼神とはまた別個の存在だ」
「――何?」
そう言う本人の姿は、しかしその元・鬼神そのもの。白い髪に白い衣服、故に際立つ血のように赤い瞳。そして肩書き詐欺のような小柄な体躯――、
「久方ぶりにぶらりと立ち寄ってはみたが。何だ、随分とまあ、この街も物騒になったものだ――と、」
『ギグルルルルル――』
先程の急転直下にて吹き飛ばされたディアが、粉塵の向こうで目を赤く輝かせている。みなぎる殺気は、手負いの獣のように理性を感じさせない。
「そう熱の籠った目で見つめてくれるな。嫌でも滾ってしまうではないか」
「っ、おい、何だかよくわかんねぇが、傷をつけないでやってくれ!」
「うん?」
「今のあいつは、怪我をして混乱してるだけなんだよ!」
「愚かか貴様。妾が何ゆえ人間の言うことを聞かねばならん?」
「ッ!」
今の一言に、俺は樹那佐の嫁さんからは決して放たれる事のない冷徹なモノを感じた。
「妾は鬼神・狂鬼姫。数多の妖怪共の君主にして世に二とあり得ぬ無欠の存在よ」
そう言って。狂鬼姫と自らを名乗るその鬼は、只の人間である俺さえも感じ取れる強い気配を放った。
「故に――妾の気紛れは絶対であり、何者の干渉も赦されぬのだ」




