《第859話》『歴然たる差』
赤い雷が走り、周囲の建物を破壊する。――この辺りの建物があるのは、あまり使われていない忘れ去られた一角にも等しい場所なので、それ程人の存在を気にしなくてもよい。
だが、壊さない方がいいのは言うに及ばない。それに、今のディアを放っておくわけにはいかないのは一目瞭然だ。
試しに一発、足を狙って撃ち込んでみる。人間の身体の構造的には、太い血管を外した位置に弾が向かう。
「――だよ、な」
だが弾丸は、ディアの身体を帯びている雷によって砕かれた。
弾の中に秘められた対悪魔用の力が、ある程度防御を弾きはしたモノの、ディアまで届かせることはできないよう。
しかしこちらの攻撃を知覚したのか、ディアが俺の方へと視線を向けた。
「そう言えば、魔界で最も強力な悪魔の娘とかなんとか言ってたっけな、あの自称二十台」
『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』
ディアがこちらへと高速で飛び掛かってくる。赤い髑髏に似た頭は、ただただ恐ろしく、それでいて狂気的だ。
「――っ、速いな。おまけに、」
ギリギリの回避。直後、背後のこれまた使われていないビルが、真っ二つに割れる。
速くて、おまけにハイパワー。ただの人間には、なかなかに荷の重い相手だと冷や汗を垂らす。さらに加えて、
「ぐっ、ふ、」
直撃は避けた筈が、周囲を取り巻いていた雷のそのまた余波を掠ってしまったらしい。気がつけば、脇腹に裂傷を喰らってしまった。
――生かしたまま止めるどころか、まともにやり合ったとしたところで命が足りねぇな。




