《第857話》『制御不能』
「っ、お前、ディアだよな――?」
『ウ、ググ、カハッ――』
全身真っ赤のおどろおどろいし姿。俺は過去一度しか見たことはないが、その姿は彼女のもうひとつの姿。悪魔としての力を前面に出した状態だった筈だ。
しかし、その全身は見るからに満身創痍だった。空間に空いた穴から飛び出してきて、現在のしかかられているが、直前まで戦っていたことが想像できる。
「おい、しっかりしろ! おい!」
『グ、やかましイね――! ソの声、狼山か………?』
「そのとおりだがそれは今どうでもいいんだよ!」
「………」
身動きのとれない俺を、近くまで歩き寄ってきた軽装女が見下ろしてくる。
その瞳は何を考えているのか読めず、冷えきったその目はこの世の者ならざる気配を放っていた。
「っ、だから、あれほど外へ出せと、吾は言ったのだ――!」
そして空間の穴から、全裸の銀髪女が上半身のみを表した。こいつもまた、名も無き悪魔だ。
「しょーがないじゃん、出てくれなかったんだし」
「汝のやり方が悪いと、なぜ思わん」
何事か、悪魔どもは互いに言い争っている。同じ顔をしておきながら、互いの意思疎通はあまりうまくはいっていないようだ。
「ディア、お前一体どこに居て――、」
『グ、ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』
「っ!?」
咆哮。赤い髑髏が叫び声を上げると、俺や名も無き悪魔どもを吹き飛ばす。
それは、一種の暴走状態――のようにも見えた。
「――全く、吾が折角この者の多大な力を吸収しようとしていたところを。致し方なし、一旦引くぞ」
「あいあいさー」
そうして、一人取り残される俺。
『ウ、ググ、グ、ぐぐ――』
「――ヤバそう、だな」
気がつけば、絶体絶命を疑わざるを得ない事態に陥っていた。




