《第855話》『一瞬の隙間が命取り』
俺は引き金を引――……、
「さっせるわけ、ねーじゃん?」
いつの間に変化していたのか、こん棒のような太さの棘だらけの足が鼻先を掠る。その間、速度、僅か0.01秒にも満たない。流石の俺も、引き金を引き切ることが出来なかった。
「あはははっ、あっはははははははっ!!」
「――っ! く、ぐっ、」
そんな攻撃が、絶え間なく続く。人間ではありえない動きに、避けるのが精いっぱいで射撃を行うこともままならない。全く、これだから人外ってのは。
「いひっ、これならどーお?」
「っ!」
背後から痛いほどの圧力。背中に目があるわけではないが、何かあるか。
だが、今の俺は目の前のこいつの攻撃を躱すので精一杯で、振り向く余裕もない。――どうすっかな。
「そぉら、穴だらけ!」
「っ、フッ――!」
俺はロングコートを翻す。ばさりと舞った裾は、一瞬軽装女の視界をそれで埋める筈だ。
「は? おぼぅっ」
コートを射貫いた幾本もの針が、軽装女の全身に真正面からブッ刺さった。俺が背後に感じていたプレッシャーは、いつの間にそこにセットしたのか、アレだったらしいな。
「チェックメイトだ」
猛攻の網から抜け出した俺は、背後からヤツの頭に銃口を押し付ける。無理をしたせいで攻撃を受け、片腕が今にもげそうだが、その価値は充分あった。
間髪入れず、俺は今度こそ引き金を引く――、
寸前、軽装女の姿が、下方に飲み込まれた。




