《第853話》『俺、人間の暗殺がメインの仕事なんだけどな』
「――お前が発信源か?」
現れた軽装女に、俺は銃を向ける。10m弱の距離の先にいるそいつの顔は、非常に見覚えがあった。名も無き悪魔と同じ顔だ。
「発信源? あー、あー、まあそりゃそうだよねぇ。あんた、それを辿ってここまで来た感じぃ?」
銃口が狙いを定めていても、軽装女は余裕そうにそう言った。まあ、こっちはただの人間だからな、それを察知しての態度か。それで油断してくれるならラッキーだが。
「それで――えー、まあ、まあ、その発信源はあたしでーす」
「――なぜ目が泳ぐんだ?」
「泳いでねーし! ただちょっと魔界蠅が目の前飛んでっただけだし!」
「魔界出身者は単語前に『魔界』とつけなきゃならねぇ理由でもあんのかよ」
なんかこう、締まらねぇな! こいつも多分分裂体だろうが、その一体が、嘘がヘタクソ、なんて言うマヌケな話があるだろうか?
「ともかく、俺の同僚を返して貰いたいんだがな」
「あー、そう言えばあんた、あたしが生まれる前にアレと組んでたねぇ」
「ここにいるのか?」
「へ? そりゃ勿論――いやいや、いやいや、いないっすよ先輩! 半人半魔の女なんて、きっとあっちのビルっすよ!」
「お前やっぱり嘘がヘタクソだろ! せめてもう少し誤魔化す努力をしろ!?」
テキトーに会話してるだけで、情報をべらべら喋りそうなヤツだった。さっきから視線さまよい過ぎだろコイツ!
「だー! もう、面倒臭いなァ!」
――と、こちらのそんな呆れにも似た思考を読んだのか。軽装女は、地面を一発踏みつけた。
恐ろしいことに、そこを中心に大きく亀裂が入った。
「何でもいいからブチ殺せば万事解決っしょ!」
――やれやれ、また人外が相手か。




