《第850話》『未だ不明の症状模様』
昔使っていた隠れ家の一つで。人間の身体に詳しい知り合いへと夜貴を診せたはいいものの、全くの異状無しと言われてしまい、妾は途方に暮れる。
器官的なモノは勿論、通常の人間の医者では診断不可な霊気に関連した部分までも確認してもらったが、異状どころかあまりにも平常過ぎて診た本人が首を傾げる始末。
頭痛も意識不明も、原因は分からず治しようも無かった。
「以前の、導摩騒動」
「妾も、それに関連した何かが今更後を引いているのかと、そう思ったのだがな」
遊が挙げた通り、思い当たる節はそれくらいしか最早無かった。
だが、あのときの起こった事態では、確実に夜貴の変調が感じられた。即ちそれが影響を残しているとすれば、確実に今調べた時点で分かるはずである。
踏んだ土には、必ず足跡が残るものだ。
「――このまま目を覚まさなければ、妾はどうすればよいのだ」
「…………」
「勿論、そんなことは考えたくはない。しかし、何もわからぬままこのように眠られては、そんな嫌な想像がよぎってしまう」
「…………」
顔はこんなにも穏やかで。しかしあまりにそれが過ぎて。呼吸の音が聞こえなければ、死んでいると言われても信じてしまいそうな、そんな夜貴の様子。
手を握れば、こんなに暖かいのに。しかし、目を覚まさない。そして、それに対して妾は何もできずひたすらに無力で。
ただこうして、起きてくれることを祈る他――、
「う、ん――……、」
「――っ!?」
うんともすんとも言わなかった夜貴が、確かに喉を鳴らした。
「夜貴! 夜貴! 分かるか!? 妾だ、呉葉だ!」
「くれ、は――?」
ゆっくりと目を開ける夜貴に、妾の目頭が熱くなる。今は、何を置いても目を覚ましたことを喜びたかった。
「え、っと、呉葉――? 遊ちゃん……? 僕は、一体」
「妾達が悪魔の討伐に向かった直後、激しい頭痛に見舞われ、倒れたと――」
「悪魔――」
夜貴は、顔を困惑の色に染めた。
「悪魔って、何だったっけ――?」




