《第848話》『それぞれが当たるべき事柄』
「本当に、何の前触れも無かったのか――?」
日ごろ共に暮らしている妾に、狼山は問うてくる。
「あったなら今頃入院している。頭痛で意識を失うなど、異状以外の何物でもないからな。こんな状態、即病院に収監モノだ」
妾は夜貴を膝枕させつつ、どうしたものか考える。
現状、夜貴らはある意味追われている身だ。普通の病院へと行ったところで、嗅ぎつけられてしまう可能性がある。
となると妾の元しもべ達の中で、人間の身体に詳しいヤツに診てもらうのがいいのだろうが。そもそも狂鬼姫一派も別に人間と友好的なわけでなく、どちらかと言うと不干渉を貫く者達が多いので、それも困難な面が多い。
とは言え、だ。
「今はあまりのんきにしてられん。夜貴はこちらで診よう」
「分かった」
「――すまん。妾が過干渉したばかりに、お前たちを追われる立場にされてしまった」
「今までの状態があまりに放置気味だったからな。多少油断するのも仕方ねぇ」
慰めの言葉を被害者本人からかけられると、余計に申し訳なくなってくる。特に、あちらで得た情報を使って対応しに行ったのが、特にマズかったかもしれない。
「だけど、罰」
「お、おい、遊?」
狼山の背中の遊が、こちらをじとっと見つめてくる。表情に乏しい幼女だが、この状況では流石に何を考えているか分かる。
「後で、くすぐり」
「――甘んじて受けざるを得んな」
そうして、妾達は一時解散する。
妾は、夜貴の治療に。
百々百々は、平和維持継続室本部へ。
そして狼山と遊は、ディアを探しに。




