《第847話》『集合』
「そっちも無事だったか」
怪人に連れ去られるまま空を舞い続ける程およそ10分。近隣の山の上に立つ電波塔、その根元付近で、狼山とそれに背負われた遊が待っていた。今は遊の治療で施設にいるはずだが、その様子はいかにも抜け出して来た、と言った体をそのまま表している。
遊の衣服が黒のゴシックドレスではなく、病院着がまさにその証拠だ。
「その口ぶりと様子から察するに、そちらも訪問を受けていたみたいだな」
「事前に只ならぬ気配を察して逃げてきたけどな」
「そんな中、妾達を気にかけてくれたことに感謝する」
「礼なら遊に言ってくれ。本調子じゃねぇ中、アレを出して外敵の襲撃を装って助けてくれたんだ」
振り返ると、怪人は特に生身の見えない身体でボディビルポーズをっていた。それに何の意味があるんだ。
「俊也、約束。アイス」
「今ここにはねぇよ――!」
「ウソツキ。罰」
『ワレは怪人トンマロク! 嘘を嘯く嘘つきな輩に、嘘より恐ろしき天罰を与えん!』
「怪人使って抗議するなよいてててて!」
妾達をここまで糸で釣って連れてきた怪人は、新たな糸で狼山の髪を縛り上げ上に引っ張る。あれは痛い。
「――いちゃつくのは後にしてくれんか?」
「アイス集られてるだけだってのいてててて!」
「それで、ですがぁ――ネロフィ君が、ここにはいないようですが」
「一回、こっちから連絡してんっすけどね。電波の届かないところに居るのか、繋がらねぇんすよ」
「――あいつもまた、名も無き悪魔を退治しに行った。それは少し、心配だな」
向かった場所が向かった場所なだけに、ディアのことが気がかりだった。悪魔は一体でもそこそこの実力を持ち、そして、力を増してきている。場数をそれなりに踏んでいる以上、引き際は心得ているだろうが――、
「それもそれとして、だ。――夜貴が、未だに目を覚ましてくれないのだが」




