《第845話》『愛する者の異変』
「――おい。お前たちは夜貴に何かしたのか?」
「はぁ? 抵抗もないのに、そんな事する必要が無いじゃないですか」
妾は思わず問いかけてしまったが、奴らが何もしていないことなど見ればわかった。冷静に状況分析を行っている今、頭に血が上ったりなどしてそれを認識違いすることはない。
と言うより、感じ取れる様子からは一切異変が見えなかった。それはもう、これ以上ない程夜貴は健常で、異状は感じられない。
――意識がない以外は。
「本当に、何もされていないのか――?」
「樹那佐君があなた方の出た後、また頭痛で苦しみ出してですねぇ。連絡して呼び戻そうとしたのですが、彼自身に止められて――」
「意識を失ったのは?」
「この方々が来る、少し前です」
百々百々の話を落ち着いて聞き取る。当たり前だが、頭痛で意識を失うなど尋常なことではない。今は安らかな顔をしているが、夜貴の身に何が起こっているのだ――?
当たり前だが、そのような兆候など今までなかった。いや、病気の中にも前触れ無く症状が起こるモノもあるので、一概に違うなどとは言えまいが。
いずれにせよ、嫌なモノを感じざるを得ない。
「――何が起こっているかは分からんが、今夜貴は危険な状態にある。病院に運んでやりたいのだが」
「それはご愁傷様で。ですが、こちらにそんな義務はありませんので、丁重にお断りします。そのうち目を覚ますかもしれませんし」
「もしものことがあってからでは遅いだろうが――!」
「そんなもの、こちらの管轄外です。我々は、この事務所に所属する人間の尋問を命じられているだけですから」
「お役所仕事のマニュアル馬鹿が――!」
「それをこなすのが、私共の仕事です」
埒が開かんと、この問答から妾は悟った。理由不明の頭痛に意識不明。大事になってからでは遅すぎる。後悔先に立たずだ。
こうなれば致し方無しだ。夜貴の身だけでもと、妾は空間の穴を開こうと考える。
――と、そんな時だった。
『ワレは怪人トンマロク! ロクデナシ共にろくでもない制裁を六回程加えてくれよう!』
クロマントに仮面の怪人が、窓を割って出てきたのは。




