《第844話》『単純ながら対応困難な』
まず、今の状況を確認しよう。事務所内はイオナズン含めた十六人の黒服がいて、その中の二人、一人ずつがそれぞれ夜貴と百々百々を後ろ手にさせ、手錠をかけている状態。
奴らは隊列を組んでいる、と言うほどではないがこの狭い事務所内で精一杯一か所に固まらぬように、かつ互いのフォローに向かえるような位置取りをしている。一応妾のことをある程度意識して対峙しているようではあるらしい。
なるほど、オーバー戦力に見えて、考えては来ているようだ。もっとも、単純な殴り合いならば妾相手には足りんのだが。
かと言って、妖怪相手だからか人質を取っている、と言う様子もあまり見えない。妖怪に人間の人質が通用する、とは考えてはいないようだ。
もっとも、実際はその人質を傷つけられることは望まないわけで。つまるところ、かなり面倒くさい状況だ。
そしてそれをさらに面倒臭くさせているのが、反逆罪の疑いを夜貴らがかけられている、と言う事。逃げようと思えば空間転移でも使えばいいが、それではその疑念を加速させる結果にもなり得る。
「殴って人の記憶をピンポイントに飛ばせれば、どれほど楽な事か」
「何をゴチャゴチャと。大人しく我々に討伐されなさい狂鬼姫。それが、世の平和を作ることとなるのです」
「わたくし殴らないでくださいね!? 余計に髪が!」
「誰がお前を殴ると言った! それと、もう髪は絶望的だろう!」
だいたい、上の奴らは夜貴と妾の関係も、至る経緯も知っておろうに。牽制するために、敢えて下には伝えていないのか。本当に、厄介な状況だ。
――と、ここではたと思う。
夜貴が、ずっと静かだ。




