《第841話》『力づくデストロイ』
「この場所は吾そのモノ。先ほど、そう述べたではないか。汝が呼吸に使用した空気も、吾が再現したモノにすぎん」
『ギ、ァ、ガゴァアアアアア――……ッ』
つまるところ、内側から攻撃を受けている。そう言う事だった。だが、ここに入り込んだ時点で奴の掌の中であることは分かっていた。
――腕を、足を、そして翼を、尾を。再び闇が拘束してくる。
『ガァッ!!』
「!」
だが、それを暴力で振り払う。酸欠状態で、内側から全身を針で貫くような痛みを味わいながら、それでも気合いで力を振るう。
「――やってくれるな」
片っ端から引き裂かれる空間に、舌打ちするように名も無き悪魔は言った。
この空間は、ヤツそのモノ。それも、魔力でのみ出来ている。将来的にはまた異なってくる予定なのだろうが、少なくとも今はそうだった。現在は手足となる分身の作成を重視していたのだろう。
そして、こちらの世界で一度に多量の魔力を補充することはできない。
『グ、くクッ、どうダイ?』
空間に入る亀裂。魔力の刃が深々と作り上げた裂け目。魔力だろうと何だろうと、自身の中で生成・備蓄できる力には、限界があるものだ。器の容量とはある程度決められており、笠増しすることは困難なのである。
だからこそ、こいつは器を別に作りそこに力を溜めこむことを画策したのだろう。逆を言えば、今のこいつは姿こそ意味不明だが、力の総量はここへ来た際と大差ない。
だから、その気になれば打ち破ることなど困難ではないのだ。
『終わラせ、ル――ッ!』
だが、だからこそアタシは気がつくべきだった。こいつの所在地を探った時、先刻襲撃があったにもかかわらず、感知の届く場所に未だいることに。
名も無き悪魔自身の魔力の量の変化などほとんどない事を、向こうだってこちらが理解しているだろうことに。




