《第840話》『握った拳を力任せに叩きつけて』
アタシは、全身の魔力を開放した。
「む、」
「はァああああああああああァァーーッッ!!」
――ヤツは先程、何の前触れもなくアタシを捕らえた。情けないことだが、戦闘などと言う行為ももはや成り立たぬ程、一瞬で負け同然にされてしまったのだ。
だから、全力を出さねばどうにもならないと理解した。正直この姿は嫌いだが、もはやそんなこと、言ってはいられない。
力が、拘束を破る。
「ククッ、身体の奥底にある力を表へと出したか」
『…………』
ねじくれた一対の角。ドクロのような面に、鋸の刃のような歯。
身長は2mを越え、両腕、両足共に硬質的かつシャープでありながら暴力的。
先端が鎌のような尻尾は細く、長く。背中には一対の蝙蝠のような翼の感覚がある。
――そんな、真紅の悪魔。それが、今まで例えどんな窮地であろうと出さなかった、アタシのもう1つの姿だ。
『アァアアアアアアアァァーーッッ!!』
「っ、っ、ほう、これは――!」
魔力をブチ放ち、周囲を赤い風で切り刻む。この力は、親父から受け継いだ破壊そのもの。力によって全てを薙ぎ払い、周囲のモノを滅ぼし尽くす。
だが、悪魔の力は強力ではあるが、理性が本能に追い付かなくなる。早い話が、火を着けたら止まれないのである。
だが、この状況ならばへたるまで暴れても問題はない。何せ、ここはヤツの腹の――、
アタシを、身体の中から何かが襲った。




