《第839話》『胎の中』
……――数分前。
「吾は、世界はどのように滅ぶのが最も美しいか、答えを見つけた」
「聞きたくも、無いんだけど?」
刀を振り降ろそうとした上げた腕が、しかしどう言うわけかうんともすんとも動かない。そんな様子を、名も無き悪魔は顔だけでじぃっと観察してくる。
「この世界はとても美しい。全てが互いに調和を取りつつ、絶妙な均衡を保っている」
刀を振ることを諦め、アタシは両腰のホルスターに収納されている二丁の拳銃を取り出す。刀は――そのままの状態で宙に浮いたままだ。
だが、拳銃ならば振る振らないなど関係が無い。そしてこれは、アタシの身体の中にある魔力を込めることで、ただの弾丸でも悪魔にダメージを与えられる。
「ならば、そんな世界の終わりにふさわしく、心奪われる結末は何か」
しかし、引き金を引いても弾丸が出ない。ジャムったわけでもない。そんな事にならぬよう、狼山程じゃないが、日々の手入れは欠かしていない。そもそも、詰まった時の手ごたえとは全く異なる。
「それは、時の一点を境に全てが一瞬で崩壊すること。丁度汝が建物のガラス戸を蹴り砕いたように、破片を巻き散らかし、粉々となって消滅することだと吾は考える」
銃の不調に対応する間もなく、両手、両足を拘束され、磔のように大の字に固まらされてしまう。
「そのために必要なことは、一つの疑似世界と化した今の吾を、この世界の中に張り巡らせることだ。そのための力を、吾の分身たちが集めている最中ではあるが――世界の全てに線を引き繋げるのに、そう時間はかからないだろう」
「疑似世界だって――?」
先程のヤツの言葉――「吾の胎の中」。つまりは、そう言う事なのだろう。
目の前のコイツが、件の悪魔なのではない。ビルの中、空間を押し広げて作り上げたこの空間こそが、名も無き悪魔の今の姿なのだ。
……――、




