《第838話》『仕方ないから今本気出す』
「はぁーーーーーーーーーーーーーーヤッバイなぁー、もー」
これでもアタシは、平和維持継続室の中では最も高い実力を持っている自信がある。
そりゃ、肩を並べられそうな実力のヤツは何人か居そうだけど。そいつらとタイマン張って、少々ハンデを付けられても、たとえちょっとズルをされても、それでも勝てると思っている。
そんなんだから、本部からは本部勤めにと異動をそれとなく言われたこともあった。待遇をよくするとまで言われたけど、けれどもアタシは毎度それを断ってる。何かあったら、すぐに飛んでいくという特別条件まで付けて、今の場所に居座っている。
「捕らえられ身動きできぬというのに、随分と緊張感を欠く溜息だな。面白い」
「いや、他にどう言えってのさ? 闇が手足を縛って空中に磔にしてるとか、漫画かなにかかい。このファンタジー状況に感想言えば、満足して死んでくれるって?」
「それはまたユニークな皮肉だな。だが、敵対状況にある吾は、汝を開放する気等無い」
「それで離してくれたら、ホント苦労しなくて済むんだけどねぇ」
最初は、近くにうまい飯屋があるとか、そんな理由だった。それを、この辺りに強力で危険な妖怪が潜んでいる(実際潜んでるけど。鬼とか、狐とか)などと言って宥めて動こうとはしなかった。
だから、そこまで強いこだわりがあったわけでなく、ただただ動くのが面倒だったわけだよ。当初は。
「――ま、そう言うことは無さそうだからさ」
「賢いな。かの世界の者と比べ、頭のまわりがよくて何よりだ」
だけど――今はさ。あの場所がすっごく居心地いいんだよね。
ハードボイルド気取ってっけどどこか抜けてる現代ガンマンに、意味不明でわけのわからないイタズラばっかりやらかす人形の女の子。
今回は勿論忘れていないけど、やったら存在感と頭髪の薄い所長。
そして――頼りないけど時々すっごい頑張ってくれるコーハイと、同僚というわけではないけど冗談みたいに最強で余計な手間も最強なその嫁さん。
そんな今の事務所で、仕事サボって安酒飲んで馬鹿やったりやらかされたりするのが、すっごく居心地がいい。
「ちょっと、本気だす」
「――うん?」
別に暗い事情とか抱えてるわけじゃないし、説得力も何にもないかもしんないけど、それでも大切な日常ってのは分かってるつもりなわけでさ。
だったら、守りたくなるもんじゃん? ついでに世界救うことになるような手間を負ってでもさ。
アタシは――先ほどのこいつの企みを聞いた頭で、そう血気した。




