《第八十三話》『しもべが生きられた道』
「――この男の言っていることは、正しいのですか? 狂鬼姫様」
幾分か動揺し、揺れる瞳。零坐さんが、初めてちゃんと僕の言葉を聞いた気がした。
それは、何らかの思い当たる節があったからなのかもしれない。――少なくとも、聞くだけの何かがあったのだろう。
「――ん、そうだな。いや、間違ってはいないが、そこまで詳細に言葉にしたことはなかったから、素直に驚いている」
「呉葉はあまり考える方じゃないもんね」
「馬鹿にしているのかお前は!?」
「いやいや、僕はただ呉葉は直感で動くって言ってるだけだよ」
「それにしたって、言い方というモノがあるだろう!?」
「――で、あるならば……」
「――うん?」
「我らはもはや用済み――ということですか?」
零坐さんの動揺した顔はさらに深くなる。
「狂鬼姫様が新たなる道を選んだというのならば、その道に我々が続くことができない。なぜなら、それは先の見通しが効かない全く新しい道なのですから」
「――何が言いたい?」
「それはすなわち、我々の死――」
「こンのばかちんがぁーっ!」
「ほぶぅーっ!?」
「ちょ――っ、呉葉ぁ!?」
呉葉の平手打ちが、零坐さんの頬を打つ。とんでもなく景気のいい音が鳴った気がする。
「お前たちは何故自分達が自由になったと考えられんのだァ!」




