《第837話》『一人芝居』
「何だこやつ、どこから現れたのじゃ――?」
九尾の狐は、新たに現れた軽装女を目にして少なからず動揺していた。それもその筈、この名も無き悪魔もまた、空間転移で現れたと考えられるからだ。
しかし、妾は別の違和感をそいつから感じ取っていた。あからさまに、奇術師とは異なる部分がある。
「て言うかさぁー、こんなのといちいちやりあってるより、他から集めた方が手っ取り早くなーい?」
「その通りだとも。しかし、せっかく質の良い力が吾の前に飛び込んできてくれたのだ。役に立ててやろうと言う人情が働こうと言うものだろう」
それは、力の大きさだ。内包している力の種類はどちらも雑多な寄せ集めではあるが。総合的な量は心なしか軽装女の方が多い。奇術師は戦闘中であり、九尾の狐から得た力も先ほど放出してしまったためとも考えられるが――、
「けどさぁ、あたしとしては早くこのキレーな世界が滅ぶのを見たいわけですよ? 人情だかなんだか知らないけど、のんびりやるのも程々にしてほしいって思うのよねぇー」
「風情の分からんヤツ――と言いたいが、その気持ち、吾も分からんでもないしな」
そうして、妾は違和感に気が付く。こいつの存在は、はっきりしているのだ。
奇術師からも力を感じるが、それはどこか掴み所が無かった。言うなれば半透明のようなもので、一部が妾の知覚できぬ力となれば、そのようになるのも頷ける。
しかし、隣の軽装女からは、これ以上ないほど明確に力を感じれた。相変わらず様々な力が入り雑じってはいるが、明確な存在感を主張しているのだ。
――力を収集し、やはりこいつは自己増殖している。
「分かった分かった。ここはまたの機会としておこう」
「さっすがあたし! 話のわかるぅー!」
「む――!」
「っ、待て、逃げる気かえ!?」
無論、逃がすつもりは無かった。逃がせば、さらに被害は拡大していくばかりなのだ。だが、この時点でもはや遅い。
「ではさらばだ、美しき者共よ!」
「ばぁーいばーい!」
空間転移の際に作りだした穴に、落下するように足から入り込んで。名も無き悪魔たちは消えてしまう。
九尾の狐が振るった宝剣は、虚しく空を切った。




