《第834話》『悪魔の策謀』
悪魔はそう言うと、ステッキを振りかざす。
直後、空間転移。九尾の狐の真後ろに登場した名も無き悪魔は、狐耳の生えた頭部を打ち据えようとした。
「甘いわァ!」
だが、狐は瞬時に反応。振り返り、至近距離から特大の狐火を叩きつける。
クリーンヒットした爆炎が、奇術師を飲み込む――……、
あんな多大な妖力をつぎ込んだ攻撃、妾ですらひとたまりも無いだろう。名も無き悪魔とて、それは同じのハズ。
――空間転移だけで対応できるほど、九尾の狐・藤原 鳴狐は甘くはない。日頃ドジばかり踏む狐だが、実力は本物なのだ。
「日頃狂鬼姫との殴りあいを制している、」
「制されているのは貴様だろ」
「制している! 余に、そのように稚拙な不意打ちなど、通ろうはずも――」
「クックック、思い付いた通り。円滑にいったな」
だがそのすぐ後。離れた位置に、健在の悪魔が姿を現した。
「ええい、ポンポンポンポン移動しおって! いい加減目障りじゃな!」
「――っ! 待て、駄狐!」
「待つ必要など無し!」
妾は嫌な予感を覚え、狐を制止する。
剣を振りかざし、俊足で悪魔へと隣接する九尾の狐。そしておそらく、神速の剣技が振るわれるだろう。
同時に九つの尾が覆いかぶさるように蠢き、それらから発せられるのは濃密な妖気。
逃げ場を無くしつつ相手を切り刻む、九尾の狐のインチキ攻撃。いい加減焦れて、勝負を決めに行くつもりなのだ。
――藤原 鳴狐を、唐突に爆炎が襲った。




