《第833話》『思案する悪魔』
「しかし、如何したものか。吾としては、難しい状況だ」
二人から殺気を向けられていると言うのに、名も無き悪魔は呑気にも手を顎に当てて思案している。
――妾と九尾の狐、双方でかかって即座に倒すことがかなわないとは思わなかった。長時間攻めているわけではなく、そして全力をかけているとは言い難い状況ではあるが、これは本来ならあり得ぬ異常事態だ。
明らかに、先刻よりも強くなっている。
「吾としては、愛らしき者の力は頂きたい。しかし、吾が同類も含めたこのやり取りをいなしつづけるのも限界がある」
「誰が同類だ。楽になりたいなら、抵抗を止めて大人しくやられてしまえばいい」
「それを選ぶ事はできん。まだ吾は、世界の滅びを目にしていない」
単調な攻撃では対処されてしまう。ならば戦略張り巡らせた――と言いたいが、生半可な手では空間転移で逃げられる。妾がそれをよくわかっている。
「――狂鬼姫、余は今何かおかしな単語を聞いた気がするんじゃが。世界の滅びがどうのこうの、のような」
「少なくともこいつは本気で企んでるだろうよ」
「な、何? それは許されぬ! そんなことをされては、ばななしぇいくなるモノが飲めぬではないか!」
「どうして突然バナナシェイクが出てくるのだ! 碌な理由ではないな!」
どうせ、しもべの誰が飲んでいたのを羨ましがって、買いにいかせるとかそんな事なのだろう。駄狐のことだ、簡単にわかる。
――と、そんな下らん問答をしていたその時だった。
「そうか、その手があったな?」
悪魔が、ニヤリと笑った。




