《第832話》『見え隠れする悪魔』
妾は無数の鬼火玉を放ち、あらゆる角度から悪魔を襲わせる。一つ一つが、並みの妖怪を吹き飛ばせる程の威力を持った妖気の塊だ。
「流石、この世界において上位の力を持つ者」
――が、名も無き悪魔は、次々と火の粉を散らして消滅していく。くるくると回されたステッキが、鬼火玉を全て弾いていくのだ。
「何を生ぬるい攻撃をしておるんじゃ狂鬼姫!」
悪魔の背後へと回った九尾の狐が、巨大な宝剣を振り回す。
一回転して繰り出されたその剣撃は、妖気を込められ広範囲・遠方を切り裂く漆黒の刃と化す。だが、それも悪魔は――、
「そして、そこの愛らしき者も同等レベルの力を持っているな」
背後に目でもついているのかと思うほどの反応で振り返り、悪魔はステッキで弾き上げ一閃。
飛来する妖気の刃が、真っ二つに折られてその余波が妾へと向かってくる。
「っ、ど、ぉ――!? っ、ええい、駄狐ェ! 危ないだろうがァ!」
「貴様がのんきにやっているから悪いのじゃ!」
空間転移で悪魔の頭上へ逃げる。妾でなくば、狐の一撃で真っ二つだ。
それを利用しそのまま、名も無き悪魔へと殴りかかる。
――またもや攻撃は、ステッキによって止められてしまう。
「余は自らの住居を吹き飛ばされて無性に腹が立っておるのじゃ! その怒りに巻き込まれたとあれば、それは貴様が悪い!」
「愛らしき者、汝が一番暴れてはおらなかったか――?」
「やっかましいわ!」
九尾の狐が、またもや回転と共に尻尾を振り回す。その中から、無数の真空の刃が悪魔へと襲い掛かる。
「はははっ、まるで吾が悪役のようだ」
が、名も無き悪魔の姿が、その足元へと吸い込まれるように消える。
「――っ!? この……ッ」
そのせいで、妾が狐の攻撃にさらされる。それを妖気の壁で吹き飛ばして、何とか地面へと足を降ろすことが適った。
「空間転移で回避しおって――! 危うく妾がやられてしまうところだ」
名も無き悪魔は、また少し離れた位置にその姿を現す。不気味な微笑みを、その貌に浮かべながら。




