《第831話》『宇宙を宿す』
先の全く見通せない深黒の中、破片のような光の粒子が周囲を取り囲んでいる。その様はまさに「宇宙」意外の形容が思い浮かばず、アタシは軽く混乱する。
「――ビルの中に、こんなプラネタリウムがあるのは想定外だよ」
この空間は、魔力によって形成されている。それは間違いない。しかも純粋で、一切雑じり気――霊力や妖力を含んでいない。
しかし、魔力の質はヤツのモノ。まるで、
「まるで、吾の胎内にいるようだろう?」
「!?」
声。しかし、振り向く先をどこに定めればよいのか分からない。全ての方向より聞こえているようであり、頭の中に響いているようでもあるのだ。
「どこを向くか、それは汝の自由だ。周囲の全てが吾であり、既に向き合っているようなモノなのだからな」
「アンタと違って、こっちはどうすりゃいいのかわからなくて困ってんだけど。出来たらはっきりしてほしいね?」
「ならばそのためのパーツを作ろう」
すると、目の前に顔が現れた。闇の中より、浮上するように。
先程にも見た、銀髪の女の顔だ。
「つまらなき世界の使者よ、吾に何用だ?」
「アタシ、アンタの言うツマラナイ世界の使いなんかじゃァ無いよ」
「かの世界に住まう者共と、同じ傾向の力が内包されていると感じるが――しかし、この世界の力も感じる」
「アタシはね、この世界にある、アンタのような人々にとってよろしくないヤツを討伐するための組織に所属しているんだよ」
顔だけの女が、目をしばたたせる。そして、すぐに顔面を満面の笑みをその顔面が支配した。
「なるほど! つまり今汝がこの場に居るのは、この世界に訪れる滅び、それへと反逆する意思によるモノか!」
「大袈裟な言い方してくれるけどね、ようはアンタに消えてほしいってことなんだよ。それをまあ、随分と楽し気に笑ってくれちゃって」
「勿論だとも! 理解しているとも! 普遍的なアクションではあるが、それ一つとってもやはりこの世界は美しいと感じていたところだ!」
元より、会話が通じるなどとは思っていなかったが。噛み合っているようで、どこか噛み合っていない言葉のやり取り。それもまあ、仕方ないのかもしれない。
何せ、根本的な考えからことなっているのだから。
「――いちいち御託は要らないね。アンタのこと、この場で滅ぼさせてもらうよ」
だから、アタシは背中の刀に手をかけた。この意味の分からない存在を滅するために。




