《第830話》『隔絶された空間』
「ここか――」
アタシは目的地に到着し、その建物を見上げた。
郊外に立つ、三階建ての古びたビル。市街地の奥まった場所にあるそれの周囲に人気は無く、まるでこの場所だけが反映から取り残されているかのようだ。
探知の反応はこの中から。外から見た様子では、ただの寂れて放置された建築物。入口は観音開きのガラス戸だが、覗いてみても何かがある様子もなく、片付けられた後の閑散とした風景だ。
だが、そのコンクリートの向こうからは、何か異様な気配が漂ってくる。
それは、恐らく魔界由来のモノ。魔力を多分に含んだそいつが、この中で何事かを行っていることの証だ。
「邪魔するよ!」
どうせ戦いになればぶっ壊れる。アタシはガラス戸を思いっきり蹴りつけて開放した。
扉は開くが、淵のフレームだけを残しガラス片が無効に散らばる。耳を突きさすような音が、辺りに響き渡った。
「――人間界だから、何にもないように見えるのか。だったら」
乱暴に侵入しても、変化は起こらない。スマフォに表示されている座標にも変化無し。
ここでとどまって何をしようとしているのかは知らないが、よからぬことであるのは明白。アタシは、自身の中にある魔力を使って、この場所の本当の姿を暴くことにする。
「ふ、ん――ッ!」
魔力を使い、このビル内のみを一時的に魔界と同じにする。そうすることで、魔界の力満ちるこの場所で、その力が何に使われているのかをより明確にするのだ。
「!?」
直後、身体が吸いこまれた。――いや、錯覚。視界に映る景色が、掃除機でテーブルクロスを吸い込むように虚空へと消え去ったのだ。
「――っ! なん、だい、こりゃ……?」
そうして、アタシの目に。その光景が飛び込んでくる。
「宇宙――?」




