《第829話》『狐と奇術師』
妾の視界に飛び込んできたモノは、爆炎だった。
「けほっ、けほっ、何だ――?」
妾は名無しの悪魔を討伐するために、駄狐の巣穴へと空間転移した。そうして開幕飛び込んできたのが、それだ。
咄嗟に防御結界を張れなければ、炭になっていたところだ。
「おや、今度と言う今度こそ、吾に会いに来てくれたかのか?」
「…………」
炎の中、立っているのはタキシードの悪魔。そして――、
「あ、ん? 狂鬼姫? 何じゃ、余は忙しいのじゃが」
全身から妖気をみなぎらせ、剣を構える九尾の狐・藤原 鳴狐の姿だ。
「と言うかこいつの今の口振り、このヤヤコシイヤツは貴様の知り合いかえ?」
「定義上『敵』の知り合いだな。これはどう言う状況だ」
「戦っているに決まっているじゃろう!」
言われずとも見ればわかる。妾が問いたいのは、そこに至る過程の話なのだ。
「吾が答えよう」
代わりに、タキシードの悪魔が、ステッキをくるくる回しながら口を開く。
「この者の力を、奪い取ろうとしたら、反撃にあっている。その結果が、この炎舞う美しき光景の理由だ」
やや不満そうに、まるで訴えるようにそう述べる悪魔。しかし、その発言には何一つ同調の余地はない。
――力を奪う。こいつの中に妖気や霊気が詰まっているのは、他からそうしたためなのか。
「移動した先に偶然強い力の者がいると、これは行幸と思ったのだが。如何せん抵抗が強く、この通りよ。手伝ってはくれぬか」
「――狂鬼姫、よもやヤツの側についたりなどせんじゃろうな」
「それはそれでお前に嫌がらせできそうではあるが」
「――おい!」
「そんな遊びをしていれば、余計な厄介事を作りそうだ」
妾もまた、全身に妖気をみなぎらせる。
「残念ながら、今回は貴様の味方だ、駄狐!」




