《第828話》『闇の中の蠢き』
呉葉が、PC画面に映し出された座標を見て、顔をしかめる。
「この座標、一つは狐の巣穴を指しているではないか」
「え、鳴狐の?」
日頃の様子で忘れがちだが、鳴狐は人間と敵対する立場にある。だが、狂鬼姫同様、強大な力と多くの妖怪・異能が属しているため、平和維持継続室もあまり手が出せない相手だ。
「悪魔の『滅び』がどの程度のモノかは知らんが、その矛先が人間に限るならば手を貸しかねんな」
「ううん、そんな事態にはならないとは思うよ」
「何故そう言い切れる?」
「あの悪魔は魔界生まれで、そしてわざわざ人間に限って対象を限る理由が無いと思う。から、かな。そして、悪魔はどうしてかそうやって偽る気も無い――気がする」
それに、どうにも名も無き悪魔には「誰かと手を組む」なんて発想はしなさそうだ。呉葉を懐柔しようとしたためそうは言い切れない筈だが、何故だか僕にはそう思えた。
「とは言え、ヤツの場所に現れた理由は気掛かりだ。二体いるのだろう、もう一体はどうだ?」
「こっちは――どこかの建物の中、だね。どこだろ、ここ」
「そこは廃ビルだね、アタシ、場所は知ってるよ」
ディア先輩は、画面を指差してそう言った。
「なら、アタシはこっちを対処しにいく」
「大丈夫か? さっきは手間取っていたろう」
「なあに、何とかするよ。さっきは、相手の事が分からなかったから、と言うこともある。今度は手の内も分かってるから、さっきみたいなことにはならないさ」
「――何となく、負けフラグっぽくないか?」
「呉葉ちん、たびたびそう言う揚げ足とってくるよね」
ディア先輩はあからさまに不満そうな顔をするが、呉葉の言う通り、三人でかかって、一人をようやく追い詰められたのだ。
だが、人に害を成す以上、どのみち放置は出来ない。ディア先輩も、自分の力を過信する程愚かでは無い。行けると言うならば、行ってもらうしかない。
「――わかりました。二人手分けして、対処を」
「了解したよ」
「マズい、と思ったら引けよ?」
「呉葉ちんもね」
僕は戦いに赴く二人の背中を見送る。――僕にももっと強い力があれば、手伝えたのに。
そんな、二人を送り出した後だった。
またもや僕を、頭痛が襲ったのは。




