《第824話》『推測、対策』
「――狼山はいないけど、呉葉ちんもいることだし、ちょっと対策会議しようって思う」
ディア先輩は所長へと報告を済ませると、僕らの方へと戻ってきてそう言った。
「思いっきり妾を含める発言をしてくれてるが、マズいんじゃなかったのか?」
「マズいよ。けど、どうにも上がアテにできそうにないって色が濃厚になってきてるしね。なんか言われたら――まあ、何とかするさね」
所長が机で、申し訳なさそうな顔をしている。何度も思う事だが、所長は中間管理の立場なので、ここで責めたりしたら完全に板挟みになる。それはかわいそうだ。
「ぶっちゃけたところだけど呉葉ちん、アイツをどう感じた? 気配とか、力とか」
「妾には分からんと言っておるだろう。前と同じく、何も感じ取ることはでき――いや」
呉葉は顎に手をやり、目を伏せる。
「いや、微弱ながら力を感じた。妖力なのか霊力なのか、それともまた別種のものなのかはわからんが」
「――やっぱりね。どうやらヤツは、この世界由来の力を吸収し始めてるみたいだ。呉葉ちんが力を感じ取れたのは、それが理由だよ」
「だが、力の種別ははっきり分からんぞ」
「多分、妖力、霊力どっちもなんだと思う。両方がこう、ぐっちゃぐちゃに混ざって、ハッキリした判断が出来ないんじゃないかねぇ」
手あたり次第。そんな言葉が、僕の頭に浮かんだ。使えれば何でもいいと考えている、と言うべきか。それとも、なんでも力にできる、と慄くべきか。
「――妖怪でも何でも、力が無ければアクションを起こせない。あの悪魔も、同じってことですか?」
「魔界では魔力――まあ、これもアタシがテキトーにこっちの言語でそう読んでるだけだけど」
「魔界の力だから魔力、ってことか」
「その魔力を、力を振るうのに使ってきた。吸収・排出、みたいにね。けど、こっちでは魔力に関してはそうはいかない。人間界に、魔力なんてモノは存在しないからね。だから、変わりの力が必要になる。それが、霊力とか妖力だ」
「魔法だなんだが在るのに魔力が存在しない、などと言われるとややこしいんだが」
「ゲームの事情なんかアタシ知ったことじゃないよ! ――ともかく、ヤツの力の源は、今この世界のモノに由来してるってことだ。そして、そうなってくると、今までと異なってくる、ある可能性がある。何か分かるかい、コーハイ?」
ディア先輩は、ニヤリと笑い、その回答を僕に促してくる。そして、その解はとても単純明快だ。
「――この世界の力由来の対策技術が、通用し始めてくるかもしれない、でしょうか?」




