《第823話》『帰還:任務失敗』
「ただいまー、戻ってきたよ」
事務所で先輩たちの帰りを待っていると、ディア先輩が、呉葉と共に戻ってくる。電話で先程、討伐に失敗したという連絡が来たので、もうすぐ戻ってくるというのは知っていた。
もっとも、任務よりも先輩方の命の方が重大なのだが。だからこそ、僕も呉葉に連絡したのだし。
「探知を見ていたら、急に反応が二つになって。それで嫌な予感が――」
「知ってるよ。んでもって、実際に二人出てきたし」
「遊ちゃんは――」
「今、近くにある平和維持継続室の治療所に行ってる。狼山と一緒だ」
「――大丈夫なんでしょうか」
「あれであの娘は頑丈だからね――大丈夫、なハズだよ」
聞けば、かなり重症とのことで。大丈夫とディア先輩は言っているものの、表情からは予断を許さない状況である、というのが読み取れた。
「妾も、付喪神系のヤツらに声をかけて、治療を確実なものにできないか当たってみるつもりだ。――組織上層部は我らの介入にいい顔はせぬだろうが、まあ、うまい事手を貸せないかやってみる」
「うん――」
「それはそれとして、だ。夜貴は大丈夫なのか?」
「えっ、何が――?」
呉葉の問い掛けに、僕はきょとんとする。何のことを聞かれているのか、一瞬わからなかった。
「呉葉ちんから聞いたけど、コーハイ、なんだか大分苦しそうに電話かけてきたらしいじゃないか」
「あー、ああ、そう言えば」
「――今は何ともないように見えるが」
「ちょっとキツイ頭痛が、ね――」
何と形容すべきだろうか。多分、錐で脳の中央を刺したような、そんな痛みだったような気がする。そんな中、よく呉葉に電話出来たなと我ながらに思う。
「でも、もう大丈夫。何ともないよ」
「……一度、病院で検査してもらいたいところだがな」
「大丈夫だって、うん」
本当は、何だったのか原因をはっきりさせたいところだけど。そんな事言ってる場合じゃないしね、うん。




