《第八十一話》『悠久の流れは止まらない』
「貴様、何を――?」
「何をも何も、おかしなことなど言ってはいないだろう。貴様は最初に言いだしたことを忘れ、今現在は一人の男に現を抜かしているのだ。逆を言えば、何故最初の使命よりもそちらを優先したというのだ」
幻影の呉葉の言葉に、口を噤む呉葉。その目はじっと睨むようで、少しだけ怖い。
実際、世の平定と言う部分を見なくとも、やはり大勢の誰かに――零坐さんたちに迷惑がかかっているというのは今の通り。
彼ら、彼女らは――呉葉にそう気楽に出歩かれては困るのだ。なぜなら、畏怖は奥底で息をひそめてこそ機能するのだから。
「そう、だな――いや、肯定するわけではない、が、ある意味でお前たちの言うことも、もっともだと思、う」
「ならば、もっと堂々と己の今の意志を話すべきではないのか? 言葉を選びながら説明されても、やはり真意は伝わりにくかろう」
呉葉――狂鬼姫と名のつく古来からの鬼神であり、そして裏側に潜むことで人々を牽制してきたその存在。きっと、そのおかげで未曽有の大事件が防がれたこともあったのだろう。でなければ、彼女曰くしもべのヒト達はここまで必死にならない。
けど、とも思う。
「ねぇ、僕から一ついいかな?」
「これは我らの問題ですよ? あなたの出る幕では――」
「この事態の責任の一端は僕にもあると思う。だから、赤の他人にされるのは少し違うと思う」
「ふむ、妾としては構わん。貴様の言うとおりであるからな」
幻影の呉葉の言葉を受け、僕は一度息を吸い込む。
これから言うことは、もしかしたら呉葉を傷つけることになるかもしれない。僕個人としては、彼女を苦しめるようなことは言いたくないのだ。
だけど、他ならぬ呉葉のために。僕は自らの想いを告げる。
「ねぇ、今の時代に『狂鬼姫』は必要なの?」




