《第813話》『悪魔の愉しみ』
世界に、この身を浸してみて分かることがある。
自身の旧い姿を脱ぎ捨て、この世界の住民の姿を借りて。そうして紛れて、その中で存在して。初めてその気持ちをこの肉体で理解する。
惜しい。壊すのが、惜しい。
「これにて、本日の吾が演目を終了しよう」
「――――――――」
腕の箇所に足を。足の箇所に腕を付けて血だまりに沈む人間三人を見下ろし、吾は一礼。先ほどこの者達は、吾と戯れ合うことを望んだ。煌めく街の中、顔面に金属を付けた者達に声をかけられたのである。
その立ち振る舞いはあまりにも緩やかで眠ってしまいそうではあったが。その顔にはっきりくっきりと色の整った表情を刻み、その芸術のような様を示してくれた。悪くない時間であったと、実感する。
無論、この者たちだけではない。様々な出来事が、吾を楽しませた。
多種多様な住民が、舞踊を披露しその光を輝かせる。その輝きを目にしていると、吾は幾度となく感動を覚え、そして飽くことなく何度も思うのだ。
壊したくない。この美しい輝きを、闇の中に葬りたくはない、と。
「ふふふ――次は、どこで誰と戯れようか」
だからこそ、吾は尚更この世界を壊したくなった。そんな吾の中に生まれた想いすらも、吾自信を楽しませる材料であり、即ちまさしくこの世界は当初の期待通りの景色を持って、心を揺り動かしてくれているのだ。
ステッキで、軽く地面を打つ。カツンと、骨を指ではじくような小気味のいい音が鳴った。




