《第810話》『魔力の残り香』
「魔力データ? そのままの意味でとらえてよいのか?」
呉葉の問いに、ディア先輩は頷く。
「悪魔にとって、魔力の質は顔みたいなものだからね。アタシの感じ取った限りだと、この現場には色濃く残ってくれてる」
「そんな簡単に漏れ出るものなんですか?」
「普通にしてる分には数分から数秒で霧散してしまうけど、今回は魔力そのものを使ってくれたからね。その残滓――いわゆる、魔力残骸的なモノがそこらに溢れてる」
人間の僕にも、そして呉葉にもそれは感じられないようだった。やはり、別の世界の存在、力であるが故なのだろう。
「使った、と言っても肉弾戦がほとんどだったような気がするが」
「形態変化にも魔力を使うのさ。体内の魔力は要するに万能エネルギーで、いわばそれをコストに身体の形を変えてるんだよ」
「そう言えば、うねうね気持ち悪かったな」
「うねうね気持ち悪かったの!?」
「腕なんて、触手みたいになったぞ。悪魔とは、皆あのようなヤツらばかりなのか?」
「悪魔にだって個性はあるし、アタシや魔界民でもそれは気持ち悪いと思う」
「魔界民ってまたすごい呼び名だな」
しかし、と思う。
「でもわざわざそんなデータ取らずとも、魔界から頂けたりしないんですか――?」
「親父はそのつもりだったんだけどね――魔界の連中も、一枚岩じゃないのさ。もっと言えば、それを足がかりに魔界に人間が進行してくることを恐れたりしてる連中もいる。アタシが人間界で働いてることだって、あまり口外出来た事態じゃないからね」
「ふむ、と言う事は――」
呉葉はにやりと笑った。腕を組んで、無い胸を張り。
「ヤツの討伐が進むのは、妾のおかげと言う事になるなっ!」
「呉葉はちゃんと反省する」
「ごめんなさい――……」




