《第806話》『掴みどころなき闇』
「ええいっ!」
掴みかかってくる銀髪女の手を妾は振り払い、もう一方の腕で至近から鬼火を放った。
圧縮された妖気が、黒コートの胸のあたりで爆発を起こす。その威力は、ビルの柱を粉砕できるダイナマイトに匹敵する。
「――っ、ぶっ、げぶっ、」
それをまともに受けた銀髪女は吹き飛び、アスファルトの上で数度バウンド。そのたびに、首や手足はあらぬ方向にボキリと曲がる。
「ふ、ふふふっ」
しかし銀髪女は、身体の内部が砕けたままのようなその姿のまま地に足を着け、勢いを殺しつつ立ち上がる。
そしてバネを地面に叩きつけたかのように大きく跳ねると、そのままこちらへ飛び掛かって来た。
「何なんだ貴様は――ッ!」
妾も対応。突撃しつつ、真正面から渾身の力を込めて拳を打ち出す。
「何!?」
しかしその衝撃は躱されてしまう。
しかも、その回避と言うのがまたまた奇天烈で。まるで軟体動物化のような曲線を胴体が描き、ぬるりと抜けられてしまったのだ。
「がっ」
銀髪女の腕――いや、もはや触手と形容したほうが適切な軟体のそれが、妾の首を掴む。
「調子に、乗るなァ――ッッ!!」
「?」
全身から鬼火を迸らせ、銀髪女を直火焼き。直後首を絞めつけていた手の力が弱まり、それを好機とみて引きはがす。
そのまま、銀髪女を地面に叩きつける。
「はぁ、はぁ――全く、本当に何なんだ貴様は、気色悪い」
「――面白い」
「あ?」
潰れた蛙のようになりながらも、平然と言葉を紡げるのか。いよいよもって、気持ち悪くなってきた。
「汝、吾と組まないか?」




