《第805話》『探知可能不可能領域』
「えっ、近くで妖怪が暴れている?」
かかって来た電話を取ると、そのような旨を告げられる。通話相手は、地域全体に探知を巡らせている探知所の人間だ。彼らの網に異状な妖気が走ると、僕達実働員にこうやって通達される。
『そちらから北北東21kmにある公園近くを、座標は示しています』
「分かりました。探知情報をお願いします」
この探知は、対象の能力や妖怪などの種別をも割り出すことが出来る。しかし今まであまり悪魔等が来訪したことは無いため、そちらの方へはまだ対応が出来ないのだ。
機械と術式の混合によって成り立つことに加え、魔界出身のヒトは最初からそれが出来るので、余計に対応が今更になっている。
『現在、暴れているのは――鬼、ですね。しかも、鬼神・狂鬼姫とよ、呼ばれる大妖怪に非常に酷似した表示が出ています、ね……』
「狂鬼姫――えっ、呉葉!?」
『くれ、は――?』
「あ、いえ、何でもないです」
呉葉が暴れている!? 一体何が起こってるのか。呉葉が無意味に周囲に被害をもたらす等、あるわけがないが――と、僕は困惑しながら電話を切る。
ちなみに、僕と呉葉の関係は一部のヒトしか知られていない。相も変わらず、広く知られることは混乱を起こすとされているためだ。
「コーハイ、何だって?」
「呉葉が、なんだか暴れているって言う知らせが――」
「全く、この忙しい時になにやってんだい」
精神的に余裕がないのか、ディア先輩は苛立ちをあまり隠さない。確かに、妙に運が悪い時があって、それのせいで探知に引っかかることもあったりする呉葉だが――、
「このタイミング、ちょっと気になりますね」
「――言われてみれば、そんな気もしなくもない、けどねぇ」
探知はひっかけることのできないものもある。そして、呉葉は暴れている。彼女が自分勝手にやりたい放題するとは考えづらく、そこから導きだされる推測は――、
「もしかして、件の悪魔と――?」




