《第803話》『飯をつくりて待つ者』
「今日は帰ってこられるのかどうか、それが問題だな」
妾は購入した食材を入れた袋を提げながら、スーパーの外へ出る。外はあいにくの曇天模様。――と言うか雨が若干パラついている。雪よりはマシ、だが。
「昨日は帰ってこられなかった。妾としては、家でゆっくり休んでもらいたいところだが、状況がそれを許さない、か」
まったく、魔界の指名手配犯だかなんだか知らんが、妾の夜貴に余計な労働を強いりよって。介入するなと言うことだから、妾は手を出せないが。
もし許されるなら、その悪魔をこの手でぶん殴ってやりたいところだ。おかげで夫婦の時間が取れず、こうして一人寂しくぼやく羽目になる。
「――いっそ、こちらから出向いて送り迎えや食事の用意をしてやるべきだろうか」
日常使用はなるべくしない主義(モノの収納と言った例外は妾基準で除く)だが、こう言った緊急事態ならば、多少の疲労を圧おしてでも活用したいところだ。
別に眠らないわけではないだろうし、どうせ睡眠をとるならベッドの方が快適。疲れもしっかりとれた方が仕事ははかどるし、いいことづくめなのである。そう言う意味では、このアイデアはかなり良いのではないだろうか。
「だが、帰ってこない限りどう提案したモノか。LINEでメッセージでも送っておくか?」
どうしたモノか。そう悩みながら、自分の車のところへと戻った時――その屋根の上に誰かが立っていることに気がついた。
長く白い髪に、漆黒のコートに身を包んだ長身の女――、
「おい貴様!? 妾の車の上に何を立っている!」
「む? この吾に何か用か?」
人間――いや、妖怪? だが、それとも違い特異な雰囲気を放ったそいつ。こちらを見る美貌は、全く悪びれた様子は無い。
「そこは立つ場所ではない! さっさと退け!」
「ほう、人間界ではこれの上に立ってはならないのか。確かに、同じことを行っている者はいない」
そう言うと女は、妾の車の上から跳躍した。
――牙跳羅の屋根が、べコリと凹んだ。
「なあっ!?」
「伝えてくれたことに感謝する。さらばだ」
「まっ」
女はそれだけ述べると、人間ではありえない跳躍力でジャンプをし、電燈の上を飛んでどこかへ去っていく――、
「待てェええええええええええええええええええええええええッ!!?」
何なんだアイツ! 弁償していけ愚か者ォッ!




