《第802話》『自然発生』
「悪魔ってヤツらは、その生まれに二種類ある」
ディア先輩は、その項目が記された部分をキャップのされたマーカーでカツカツと叩く。
「一つは、悪魔同士のつがいから生まれるいわゆる生殖系。そう言う意味では、アタシもここに入るわけだ。ぶっちゃけ、悪魔と言っても人間と変わらない部分も多々ある。――と言うか『悪魔』なんてこっちの世界じゃ名付けられてるけど、実際のところ魔界の『人間』と呼んだ方がしっくりくるくらいだとアタシは思うよ」
今までだってディア先輩に聞く魔界の話は、確かにその傾向が強かった。なんとなく小競り合いは概ね多い様子ではあるが、基本的には平和な世界なのだ。
――呉葉が仮にここに居たら、きっとまた「こう言う組織なんてそんなものだ」とか言いそうである。
「もう一つは、魔界中に漂う魔力によって自然に生まれた自然発生系。悪魔って言うのはそもそも身体そのものが魔力の集合で出来ているようなもんでね。その質によって姿はある程度決まるけれども、だからこそ自由に変えられるってわけなんだ。逆に、魔力の質が顔のような役割を果たしてるのも、そう言った理由が大きいのさ」
「ちょっと思ったんだが、そうするとディアの身体は何で出来てんだ?」
「うん? ふふっ、知りたいかい?」
「いや、別に」
「そこは知りたいって言うところじゃないかい!?」
「別にもったいぶられるなら、ってカンジが正直なとこなんだが」
「半々だよ半々! 魔力と、人間界の物質! 半々!」
ともかく、と。ディア先輩は咳払いする。
「今回悪意を持って入り込んで来たヤツは、後者の自然発生系だ。だが、生まれたばかりにもかかわらず、その能力は魔界における上位の王に匹敵するらしい。そして――この系列においては、適応能力と知能が抜群に高いことも特徴として挙げられる」
それは、親がおらず、己の身ひとつで生き抜き自らの居る世界を理解してきたため。そして、そんな存在であるからこそ――と、ディア先輩は、神妙な面持ちになる。
「一度狂った価値観を持っちまったが最後、それは魂に永遠に刻まれたままになる」




