《第801話》『探索手ほどきその1』
「さて、ここらでヤツの情報をもう一度まとめ直しておくよ」
そう言って、事務所にてディア先輩はホワイトボードにマーカーで書き込んでゆく。
「ヤツの特徴は、長い銀髪と赤い瞳、それから長身細身の女の姿をしてるってことだ。俗に言う美人――なんだが、悪魔ってのはその気になりゃ、視覚的な姿なんていくらでも変えられっからアテになんない」
「一応、基本の姿はそれなんだろ?」
「そうさね。まあ、飽くまでかもしれない情報の一つってことで」
「悪魔だけに?」
「さむ」
「思いついちまったモンはしょーがねーだろ!」
基本全職員投入を言い渡されているため、本来担当の違う狼山先輩や遊ちゃんも参加している。――実際に遭遇した場合、どうするのだろう。
「代わりに、魔力を判定する道具が渡されてる筈だね? 悪魔にとってのそれは、隠しようのない顔さ」
「妖力とはまた質が違って――やりにくいですね」
「そもそも魔界って、人間界からすりゃ異世界だからねぇ。感知する器官が無いのは当然さ。だからこそ、アタシを含めた他の魔界出身者が協力して、件の装置が作られたわけで」
「――でもそう考えると、装置さえあれば探すことは難しくなさそうですね」
「ところがそうでもないんだよねぇ。気配を殺す、みたいなノリで魔力を身体に閉じ込めておくことだってできるからね悪魔は。全く漏れ出ないわけじゃないけど、距離が遠くなれば難しくなる。だから、先ほど行った基本の姿を知っておく意味が一応はあるのさ」
そして――と、ディア先輩が、ホワイトボードの空白を指し示す。
「こいつの際たる特徴は。生まれたばかりであり、それゆえに名前がないことだ」




