《第七十九話》『仕えし者』
こんにちは、零坐です。私の目の前で、狂鬼姫様がすごく楽しそうです。
かつてここで暮らしていた時は、我らが鬼神のあのような顔を見たことがありませんでした。趣味になされていたテレビゲームをされる際も、楽しげではありましたが、心の底からと言うには少し違う気がします。
「と言うか呉葉、その前にその薬、『高かった』って言ったよね?」
「ぎくっ」
「いくら?」
「いや、えっと、その、それはだな――」
しかし、今の狂鬼姫様は一つ一つの行動をとってみても楽しそうで、もう一方は我らの知る鬼神に近くありましたが、それでも、やはり目の輝きは違っていて。
わたくしの先祖からの言い伝えでは、狂鬼姫様は世界に対する抑止力であるという使命を自身に課したと聞いております。実際、出て行く前のわたくし共が知っているあの方の姿と言うのは、どっしりと構えている状態だったかと思います。
「もーっ! いろいろローン残ってるのにそんなの買って!」
「だ、だから、そのきっかけこそお前にあってだな――」
「でもこっちの呉葉がむしろ逆効果って事に気が付いたじゃないか! なんで現在の呉葉が気が付かないんだよ!」
「わ、妾とて必死だったのだ! 必死だったのだァ!」
「現在の妾よ、駄々をこねても使ったお金は返ってこないだろう」
「ええいやかましい! そもそも貴様が余計なことをしなければ少なくとも媚薬の金額のことは言わずに済んだのだ!」
――狂鬼姫様に仕えるこの身としては、そんな状況を命に変えてでもたださなければ。そう思うわけです。
なぜなら、良きしもべと言うのは主の言いなりになるものではなく、その行いをより良き方向へと照らすモノであるからです。古今東西、家臣と言うのは本来そう言ったモノです。
「――狂鬼姫様」
「わ、わかった、わかったから、今度こそ節約――……なんだ?」
例え狂鬼姫様の怒りに振れ、死ぬことになろうとも、わたくしは本望です。そんな、決死の想いを込め、狂鬼姫様へとわたくしは声をかけました。




