《第797話》『ドン☆』
「さあ、出来たぞ! 年越しそばだ!」
「うわぁ、麺が見えない」
ドン☆ と、テーブルの上に置かれた、呉葉作の年越しそば。黒い器に盛られたそれは、しかし蕎麦と言う名前が実感できない程具が盛りだくさんだった。背丈が妙に高い。
「今年最後の料理だからな、全力で張り切ってみた」
「すごい、海老天が直立してる――ちなみに、具材は何が入ってるの?」
「ふっふっふ、食べてみてのお楽しみ、だ」
そう言われ、僕は早速手を付けてみる。まずは海老天。何とこれが二本でしかも大きい。衣がサクサクで、作りたてだ。蕎麦の汁が軽くしみて味と触感がすごくよい。
それがもたれかかり直立させているのは、かまぼこに油揚げ、甘辛く煮た牛肉、ふわふわの卵焼き、そしてなめこ。そこに大根おろしととろろがかかっており、おまけにしいたけも二つ。その上にねぎがまぶされ――なんかもう、スペシャルだった。
「ちなみに、その下にはごろっと大きな鳥のもも肉も入ってる」
「蕎麦と言うより、具の方がほぼメインみたいになってる――っ」
どうだ、恐れ入ったか! そんな声が聞こえんばかりのしたり顔。ただ、文句をつけるわけではないのだが――、
「えっと、ちょっと量が多すぎない?」
「――あ」
どうしてそこで今理解したような顔を!
「そ、その――張り切って作ってたら止まらなくて、な」
「やっぱり」
「しかも、よく考えたら肝心の蕎麦が伸びてしまうではないかァ! 妾何やっとるんだぁ!」
テンション上がって、他のことを忘れてしまうのはよくある――の、だろう、か……?
「そ、その――食べきれなかったら残していい、ぞ……?」
先ほどまでものすごく調子がよかったのに、一気に呉葉は意気消沈してしまった。
気落ちした様子は、明かりを消した提灯のよう。――けれど僕も、呉葉のそんな姿を見ていたくはない。
「ん、大丈夫だよ。折角張り切って作ってくれたんだし、もったいない」
「だ、だが、夜貴は小食だったろう――? それを忘れてどかっと作ってしまうなど、」
「今年もありがとう、お疲れ様呉葉。来年も、よろしくね?」
「――っ!」
確かに多くはあった。だが、僕は呉葉が作ってくれた年越しそばを残すつもりなど、万に一つもなかった。
――しばらくお腹が苦しかったけど、これが僕の貰っている愛情だと思えば。とても嬉しかった。




