《第796話》『新年は曇り空予報』
「何? 新年も休みが取れそうにない!?」
僕が残念なお知らせをすると、呉葉はまるで地球を滅ぼす隕石が降って来たような顔をした。まだまだ世界は終わらないんだけどね。
「わ、我が夫がここまで仕事人間だとわ――ここから夫婦の会話が無くなり、互いに不満を溜め、遂には……」
「お、大袈裟だよ。今年だけだと思うから――多分」
正月はいつもお休みだし、呉葉と結ばれてからは一緒にゆっくり過ごしていた。だから、驚く気持ちもわかる。
「――で、なんで突然そうなったのだ?」
「それがね、経緯はこの間にさかのぼるんだけど――」
情報源はディア先輩から。なんでも、魔界で悪さをした凶悪犯が、人間界――即ち、僕らの住んでいる世界へ逃げてきたらしい。そんなワケだから、今平和維持継続室は躍起になってその犯人を捜しているのだが、
「これが、まるで足がつかめなくてね――」
「だが、夜貴は管轄外だろう? 情報収集に関しては、専門の部署があったと、妾は記憶しているが」
「まあ、ウチも慢性的な人手不足だからね。話を聞く限り、相当危険な悪魔らしくて。それで、もはや専門だのどうの関係無く、情報集めに走ってる状態で」
「そんな勢い管理では、もはや組織自体が半ば危うくないか――?」
そのトップだった導摩がいなくなったことは、確か発表されていなかった筈。と言う事は、それをひた隠しにして代理の人間が組織を回している筈である。
うまくいっていないのは、火を見るよりも明らかだ。ここまで悲惨だったとは。
「よし、分かった。妾も手伝おう」
「――それが、ね。直接、呉葉は手伝うなって言われちゃって」
「何?」
「正直言うと、手伝ってくれた方がありがたいんだけど――どうにも、妖怪の、それも今は隠居状態とは言え、その統括する立場にあった狂鬼姫の力は借りたくないみたいで」
「全く、この手の組織はホント無駄にプライドが高いな」
あまり表に出さないよう努めているみたいだが、一緒に居続けた僕としては、苛立っている様子がありありとわかった。
「――まあ、なるべく早く片付けられるよう、微力でも全力を尽くすことにするよ。だから、待ってね? ね?」
「むぅ――致し方ないな」
――新年あけても、新年らしいことは何一つなさそうだ。それが、呉葉に申し訳ない気分だった。




