《第795話》『早朝取り寄せた』
「よーたーかっ!」
「うわっ」
寝起きでぼーっと突っ立っていると、そんな覆いを払うかのように、呉葉が背中に飛びついてきた。
「ほら起きろ、朝だぞ! ぼへっとした顔で出勤するわけにも行かんだろう、水で顔でも洗ってくるといい!」
呉葉は小柄な体格であることもあり、体重は結構軽い。見た目相応と言ったところで、こうやって寝起きで体重をかけられても、余裕で立っていられる。こんなことをされるのもいつものことで、驚きこそするものの、突然どうした、とはならない。
――筈だったんだけど、
「――ねぇ、呉葉」
「うん? 何だったら、妾が身支度のお手伝いを隅々までしてやっても、」
「ちょっと体重増えた?」
「…………」
「…………」
「んなわけなかろう!?」
返答通り、そんな馬鹿な! と言った言葉が返ってくる。
「妾は鬼じゃぞ!? ちょっとやそっとのことで腹まわりの肉が変わっていれば、ぐうたら生活送っていた妾等、とうの昔にまんまるころりんだ!」
「ま、まんまるころりん――」
「だから太るなどあり得んのだ! それどころか、以前より動いている以上尚更あるはずがないのだぞ!」
「そうは言われてもね――」
実際、いっつも寄りかかられたり何だったりする身としては、非常にその変化は目立つわけで。体重自体は、1kg、2kg程度の変化かもしれないけど、僕にはよくわかった。
「い、いやだっ! 妾まんまるころりんにはなりとうない!」
「う、ううん、だったらダイエットする?」
ほんのちょっぴり増えただけでそう大騒ぎする者ではないと思いつつも。彼女が体重の増加を気にするというのならば致し方ない。僕も全力でサポートしてあげるべきだろう。
べちゃっ
「――ん?」
「何かが落ちた音?」
振り返ってみてみると、床の上には何故だか小ぶりな鮪が一匹――……、
「そうだ、そう言えばこいつを背負っていたことを忘れていた」
「なんで!?」




