《第787話》『光失せたる』
「余、余のお金ぇ~……」
完全に金霊の逃げ去った、狐の住処。駄狐はがっくしとその中央で膝をつき、そんな様子を奴のしもべ共は眺めている。
「――まあ、何だ。これに懲りて、今度はお金周りの管理はきっちりやるのだな」
「ど、どうして余がこんな目にぃ! 余が何かしたかえ!?」
「借金を三百年にわたって返さず、取り立てられても踏み倒しに行ったことを、何もしていないとは言い難いな」
「余のお金ェ~!」
夜貴が、どこか同情的な目で駄狐を見ている。だが、今言った通り自業自得な面も強いので、一方的に憐れみを感じるのもいかがかと思う。
――とはいえ、その気持ちもまあ、分からなくもないわけで。全てこいつのドジが招いた結果であるが、何も思わないわけでもない。
仕方のない――
「――おい、駄狐。もし貴様さえよければ、」
「狐様! ご安心を、我ら一同がお助け致します!」
妾が多少の助けくらいは提案してやるかと思ったところで、狐のしもべ共から声が上がった。
「にゃ、にゃに――?」
「ワシらだってお金くらい幾らか持っております」
「全員で分担すりゃ、今まで通りとはいかずとも、狐様の生活をお支えすることなんぞわけありませんわ!」
「お、お前たち――」
「――まあ、狐様のおっちょこちょいは今に始まったことじゃありやせんし」
「今回はまたド派手だけど、まあ、絶望的ではないっちゅいいますか」
「っ、お、お前たち、不敬じゃぞ――っ」
どうやら、妾が心配してやるまでも無さそうだ。なんだかんだ、部下からは慕われているらしい、あの九尾の狐は。
どれだけ落ちても、こいつは奴らの主足り得る、という事か。
「――夜貴、帰るか」
「うん。――って、今日の僕のセリフこれだけ?」
「ははっ、まあ、そう言う時があってもいいだろう? さぁて、帰ったら寝るぞ寝るぞ。いつもの睡眠時間から、何時間経っていると思う」
「よし、手始めに侍渺茫を質に入れるのじゃ!」
「!?」
「――やっぱ、一発殴ってから帰るか」




