《第786話》『お金ビーム』
「な、なんじゃアレは!?」
発せられた光線が、侍渺茫を洞穴のはるかに高い天井へとたたきつける。現実で、ビームによって人(妖怪だけど)が吹き飛ばされている光景など、妾初めて見た。
「ふっふっふ、侍渺茫殿と言えど、今のあちしにかかればこの通りザマス!」
「ぬぅ――! 貴様はどうやら、地獄への案内状を相当に所望していると見える……ッ」
鳴狐が、尻尾の隙間から剣を取り出す――、
「させないザマスッ!」
「ふん! この余が、そう何度も光で足を止められると――」
金霊は、その釣り目眼鏡をくいっと持ち上げると、そこから二筋のビームが照射された。
しかし、駄狐の言う通り、結局それは妖力によって形作られたモノ。本気を出せば、どうと言うことも無くなるが――、
ビームは、洞穴の天上をまっすぐに薙ぎ払った。
「お、お、お、どぅわぁああああああっ!!?」
「っ、と、夜貴――っ」
「うわぁ!?」
熱膨張による爆発と共に砕けた岩盤が、頭上より降り注いでくる。妾は、夜貴の手を引きつつ守り、その場所から下がる。
「っ、じゃが、瓦礫が降り切る前に貴様の首を刎ねることなど――……ォッ!?」
続けて、鳴狐の足元にも光線が走る。同じくして破裂する地面。上から下から、バラバラと舞い踊る岩の破片たち。
「あァ、ばよ~ザマスゥ~!」
まともに戦えば勝ち目はない。金霊も、それはよく理解しているが故の行動。自らの能力全てを、逃げることに注ぎ込んだのだ。
正面切って戦う相手を潰すよりも、逃げる相手を追いかけ倒すことの方が、よっぽど困難。実力の差を埋めるというのは、即ちこのようなことを言うのかもしれない。
金霊の逃亡、という結果を見れば。それは証明されたも同然である。




