《第784話》『金の力』
「そうじゃとも、余を誰じゃと思うておる! 余は白面金毛九尾の狐が娘、藤原 鳴狐じゃぞッ!」
どろどろ、どろどろと、邪悪な妖気が周囲を支配する。
そもそも鳴狐、もとい九尾の狐一派は、闇に息づく者達の中でもトップクラスに強大だ。現在その頭を張るこいつはドジではあるが、実力は本物である。
そして、その九尾の狐の名を受け継ぐこいつが、その力をこの場で発揮しようとしている。しもべクラス等、普通に考えてひとたまりもない筈だが――、
「ほぁッ!」
「!?」
唐突に、金霊が黄金の光を放った。今の金霊は、その段階を大きく飛び越している。
「め、目がァ!? 目がァ~!?」
眩いばかりの光が、鳴狐の目を晦ませたらしい。駄狐は唐突な輝きに目を押さえ、ずるずると後ずさりする。
目くらまし!? ――いや、これは……、
「全く、とんでもない狐様を主としてしまったザマス」
金霊の全身から漲る妖気。――先ほどまでは気がつかなかったが。その大きさは、その辺の妖怪等足元にも及ばぬ程強大なものだった。
「お前、その力は――」
「3000貫――三億円の力ザマス」
妾や鳴狐と並べると、まだわずかながら及ばない。が、不意打ち気味に仕掛ければ、優位に立てる程度には、その力は膨れ上がっている。
「あちしの名は『金霊』――お金の力こそが、我が力! 今、あちしの中には、狐様よりお返し頂いたお金が眠っているザマス!」
そう言うと、黄金に光り輝く金霊は、くるりと回れ右。
「というわけで、トンズラするザマス!」
あ、逃げた。
「な、何をしている、者共――ッ!」
未だ目を押さえながら、駄狐は絞り出すように声を出す。
「裏切りものじゃァ! 者共、金霊を捕えろォッ!!」




