《第782話》『長年の積もり積もりが』
「当然ザマス。いくら相手が狐様であっても、あちしもタダでお金を貸すわけがないザマス」
金霊は、眼鏡をクイッと上げた。このタイミング、この性格、この状況で本当にやるヤツ、初めて見た。
「と言うか、貴様何故部下から金を借りたんだ」
「いやその昔、ちょっと目の前に欲しいモノがあってのう――」
「いくらだ?」
「――100貫」
「1000万から1500万、といったところか。一体目の前に何が転がり込んで来たら突然入用になるんだ」
「今からおよそ300年前ザマス。確かその時は外へ入用で、その際に美しい屏風に出会われたと記憶しているザマス」
いわゆる、衝動買いと言うヤツらしい。外へ入用と言っても、多額の金を持って行くような用事でもなかったのだろう。
「ええっと、そうすると――だいたい金利は10%弱?」
「ちょっと高いが、悪徳高利貸しと言うほどでもないな。と言うか、よく貸したし、貸せたな?」
「あちし、一種のお金の精ザマして。そして、お狐様は数々の妖怪を束ねるお方。信用も充分だと考えたんザマス」
さも当然のことを言っている、という体だが、実際当然のことを言っているためまるでツッコミどころがない。
ケチクサい見た目だが、するところはしっかりしているようだ。
「何で返さなかったの?」
「いや、んなはした金、いつでも返せるわー、と思って――」
「利子の説明はしたのか?」
「勿論ザマス」
百歩駄狐側に歩み寄るとすれば、その説明を本当にしていたのか怪しいところだ、というところだが――、
「そ、そう言えば、そんな事も言っておった気がする――」
「えぇ?」
「契約書も、ほらザマス」
「ちょっと黄ばんでるが、確かにそのように記されているな」
こうなると、悪いのは一気にこのアホ狐と言うことになってくる。まるで全然、この金霊と言うヤツにほぼ非は無い。
ほぼ。
「しかし一つ疑問に思うのだが」
「何ザマス?」
「何故、このタイミングで言い出したのだ?」




