《第七十七話》『あな』
「ちなみに、収納しているのはお菓子だけではないぞ」
そう言うと、 呉葉は次元の穴に手を突っ込み、色々なモノを取り出し始める。財布に、広告のチラシに、通帳に、買い物用の手提げかばんにと――普通ならバッグに入れて持ち歩くモノが、そこから次々と現れた。
「と言うか、とっておきじゃなかった?」
「何か勘違いしているようだがな――とっておきは次元の穴ではない」
「じゃあ何?」
「このポテチとコーラに決まっておろう」
「そんな鬼神見たことないよ――」
やっぱり、アレだよね。呉葉に常識的な鬼の枠を当てはめるのはやっぱり間違いだよ。
「言ってしまうと、これは疑似世界創造なのだがな」
と、幻影の呉葉。
「作った小さな世界に、昔からこうやってモノをしまい込んだものよ」
「冬眠前のリスみたいな――」
「ボコボコにした奴の首、奪い取った金銀財宝――」
「うわ、すごい鬼っぽい――」
昔は。
「他には酒や食い物、暇つぶし用の書物――」
「――うん?」
「唐から渡ってきたという菓子もしまいこんだな」
「やっぱり変わってないじゃないか!?」
「変わったなどと一言も言っておらんではないか! ――まあ、百年して奪い取ることにも飽きてきて、それをする必要もなくなって以来、嗜好品を保管しておく方向性に変わったがな」
だが、やっていることは小さいとはいえ、技術自体は見た目よりも相当使うに違いない。それを軽くやってのける呉葉は、やはり強力な鬼なのだろう。
「うん? 穴から何か落ちかけてるよ?」
「何? ――ッッ!!」
現在の呉葉は振り返ると、急いでそれを押し込めはじめた。
「どれどれ?」
「あ、こら待て貴様!?」
それを、新たに次元の穴を開いて取り出す幻影の呉葉。彼女も同じ呉葉なのだから、同じ先へと手を伸ばすのは可能なのだろう。
「――なんだ? この薬は。『媚薬』……?」
「や、やめろぉ! 高かったんだぞそれはぁ!」
「…………」




