《第773話》『魔界出身だからね!』
「今からアタシをおねぇちゃんと呼びな!」
「はぁ」
クラウディアが、自分の机の隣で突然立ち上がり早朝からおかしなことを言っている。狼山は、自分へと向けて突然そのようなことを宣う同僚に、あからさまに困惑する。
「そう言うのは、樹那佐と呉葉の役柄じゃねぇのかよ」
「ま、確かにその通りだけどもね」
「僕とウチの家内をまるでいつも奇行繰り返してるみたいに言わないでくださいよ!?」
クラウディアは、けらけらと笑って手に持った一升瓶に直接口をつけていた。既に酒臭い。ついでにもはや誰もツッコむ者はいない。
「で、何事だよ、突然」
「いやぁ、どうもアタシ、今度おねぇちゃんになるみたいでねぇ!」
「えっ、お前何歳――」
「あ゛?」
「すまん、何でもない」
「おねぇちゃんになるらしくてね、その予行演習ってわけだ」
「ヒトにおねぇちゃんって呼ばせても、練習にはならないと思いますけど――」
クラウディアの父親は、魔界の王。そしてその妻は人間である。
そして、その父親は何故か農耕を営んでいたり――よく、クラウディアに里帰りのお土産としてそれを持たせたりなどする。
「めでたいからなぁ! 思わず今日は酒も進んじまうってもんだよ!」
「ツッコミ待ちか? いつもだろ――」
「まあまあ、めでたいことは確かですし」
「というわけで、アタシのことはおねぇちゃんと呼んでくれ!」
楽しそう。樹那佐も狼山も、組織随一の戦力たる女の酔う姿を見て、思わず微笑みが漏れる。
「――ところで、コーハイのとこはいつ生まれんの?」
「ウチはまるでまだまだですよォッ!!?」




