《第772話》『旅は道連れ世は情け』
「夜貴、妾今、少し考えてることがあるのだが」
「しょうもない事?」
「うむ、しょうもない事だ!」
そう言って、得意げに胸を張る呉葉。まあ、特に何もすることが無い時は、大抵そう言うモノだけどね。
「――で、どんなこと?」
「空間転移応用で、別の世界とか行けたりしないかなー、と」
「ゲームや漫画の観過ぎじゃないかな!」
「異世界が無いと? いやいや、分からんぞ」
「仮にあったとして、どうやって空間転移で――」
「だからこそ、今考えている」
こういうことを考えている時の呉葉って、楽しそうなんだよね。だからボクも、雑談に乗ってあげたくなっちゃう。
「そもそも、空間転移の先って、場所が分からないとできないんだよね?」
「基本的には、空間に入口を開けて境目に入り、そこから先に、出口を繋ぐ技だからな」
「――境目って、どんなところ?」
「どんなところ、と言われてもな。んー、何もない、ところ?」
「漠然としてる――!」
「そもそも、妾がそう認識しているだけで、実際にそうなのか分からん」
「どう言う事?」
「妾がそう認知しているだけで、本当は知覚しきれておらぬ何かで満ちているのか、そもそも知覚できる何かがあるのか。今感じているのは、妾の感覚が無意識にそう意識に投影しているだけで、本当にそう言った光景が広がっているのか、」
「ストップストップ! 頭痛くなりそう――ッ!」
「うむ、妾もだ!」
呉葉本人も、割と空間転移は力づくでやっているようなので、理解しきれているわけではないようだ。と言うか、認識できているのか怪しい以上、分かりようもない、と言うべきなのか。
――言ってて、よくそんなんで安心して使ってられるんだ、というツッコミを入れたくなる。我が妻ながら、いろんな意味ですごいヒト……いや、鬼だ。
「――ただ、こう、ちょいちょいっと工夫すれば、出来なくもない気がするのだがなぁ」
「出来そうだと思っても、やらないでよ――?」
「何故だ?」
「だって、そのままどこかへ行って帰ってこれなくなったら、悲しいし――」
呉葉が、虚をつかれたように目を丸くする。そしてすぐさま、にやーっと笑顔に。
「ふふん、安心しろ。その時が来たら、一緒に異世界を冒険しようではないか」
「わ、道連れにする気満々だ」
そりゃそうだろう、と、呉葉はにまにま。
「旅は道連れがいなければ、つまらんからな!」




