《第770話》『すごい縁だけど、普段は割と普通です』
「ただいま~」
「うむ、おかえりっ」
僕が帰宅すると、台所の方からてってと足音が鳴り、呉葉がとんでくる。夕食の用意中だったらしい。
「車での通勤ならば、音で分かるから待機しておけるのだがな」
「そんな、そこまでしなくも」
「免許とらんか? 妾の車も運転させてやるぞ」
「いや、事故車はちょっと――」
「毎度毎度不慮の事故だ!」
ちなみに、免許自体は考えてなくもなかったり。あった方が便利だし。
「今日はケーキ買ってきてみたよ」
「む? 何か記念日だったか?」
「ううん、いつも頑張ってくれてるからね。二人で食べよう」
「はははっ、二十歳前なのに行動が妻帯者のサラリーマンだぞ!」
「じ、実際妻帯者だよっ」
「うむ、ありがとう。感謝するぞ。ん」
呉葉が、唇を突き出してくる。
「え、ええと――」
「ただいまのキス! いつもいつも、よく飽きずに照れられるなぁ夜貴は」
「だ、だって、実際恥ずかしい、し」
――と、言いつつも。いつも通り応じる僕。……たまには、僕からリードすべきなんだろうけど。
僕らの唇が、接近する――、
「狂鬼姫ィイイイイイイッ! 今日こそ余が叩き潰してくれるのじゃァ!」
――どういうあれなのか、突然の鳴狐訪問である。きちんと、壊さず普通に扉を開けてきてる。だけど、
「…………――――死ね」
「今こそ決着――あ、何?」
「今日こそ死ねェッ! 駄狐ェええええええええええええッ!!」
「な、何じゃァあああああああああああああああああああッ!?」
タイミングは悪すぎなんだよなぁ――。




