《第七十六話》『万能鬼神・狂鬼姫』
「うう、食べ足りない――」
僕はお腹をぎゅるぎゅる鳴らしながら、思わずそう呟いた。青酸カリ入りで無駄になったメザシの代わりに、二人の呉葉から分けてもらった頭と尻尾じゃ全く足りない。
「狂鬼姫様より施しを賜っておきながら、それに不満を申すおつもりか!?」
「そう言う君は大丈夫なの?」
「…………」
零坐さんは答えない。しかし、その沈黙が彼の腹具合を雄弁に語っていた。
と言うか、ここのヒトたちは人間・妖怪に限らずあまり元気がなかった。彼らが崇める狂鬼姫相手にすらメザシ一匹ずつしか出せないところを見ると、普段もまともな食事をとっているとは言い難いようだ。
「ふふん、腹が減ったか夜貴? ならば、こんなこともあろうかと持ってきたモノが、ここにある」
「――え?」
目を瞬かせる僕を尻目に、呉葉は空間に手をズボリと突っ込んだ。
「えっ、ちょ、呉葉!? 何してるの!?」
「何って、次元の狭間にしまっておいたモノをだな――あったぞ」
そう言って、彼女が取り出してきたモノ。それは――、
「あ、ポテチだ」
お菓子だった。割とよく見るポテト人間みたいなキャラが描かれたパッケージのそれが、何袋か。あとジュース。
「と言うか、そんなことできたの!?」
「とっておきの、とっておきだぞ?」
「とっておきをお菓子しまうのだけに使わないでよ!?」
「きょ、狂鬼姫様!? お菓子は決してお夕食の代わりになどなりませんよ?」
「ほう? では、貴様らはいらんとな? 折角、ひもじそうな貴様らにも分けてやろうと思ったのにな――」
「う――」
嫌味たっぷりな呉葉の言葉に、零坐さんは痛いところをつかれたと言うように口を引きのばす。――部屋の入り口を見ると、すごく羨ましそうにこちらを見ているしもべ達が。
「――分かり、ました。いただきます、狂鬼姫様……」




