《第767話》『みりん』
「ふわぁ――呉葉、何飲んでるの?」
「む? ああ、コップのこれか。これは『みりん』だ。久しぶりに飲みたくなったのでな」
「えっ、みりん? みりんって、調味料のみりん?」
「うむ、まあ、だいたいその通りだな」
「それ、飲むモノじゃないんじゃ――」
「ところが、実はそうでもない。江戸時代では、ちょっとお高い飲み物として流通していたのだ。今でこそ料理に使われるイメージではあるが、それは大分後。大正末期から昭和初期の間に濃く作られるようになり、第二次世界大戦後くらいになって、ようやくご家庭で調理用として使われることとなったのだ」
「濃く――ということは」
「うむ。飲用は薄めて飲む。本来のちゃんとしたものは『本直し』として今でも売られていたりするが……一ビン1500円を超えるのでな。これは、調理用を妾なりに薄めている」
「そうなんだ――僕もちょっと飲んでみよ」
「え、わっ、馬鹿っ!」
「ぐびっ――……ッッ!!? っ、これお酒じゃないか!」
「みりんはお酒に決まっとるだろが!? 普通に酒税を取られる調味料なのだぞ! 20歳未満は飲んではいかん!」
「う、は、早く言ってよ――、」
「みりんにアルコールが含まれているのは常識だろう!? しかも、清酒の類で、オマケに言えば割る時もベースである焼酎だ! 度数は20度前後! それを未成年で、しかもあまり強くないヤツが一気に呷りおって!」
「――と言うかそんなのをなんで朝から飲んでるんだよぉ……」
「飲みたくなったからだっ」




