《第764話》『冬の日間近の贈り物』
「おすそ分け、です――! よいしょっ」
「皆、一匹ずつ持って行ってくれ」
平和維持継続室の、とある一地区を担当する、その事務所。僕の勤務するその場所に、今日は呉葉と一緒に通勤した。
「なんだいなんだい、この保冷ボックスは?」
「おお、ディア! 久しぶりだな! これはな、カニだ。松葉蟹」
「おいおい、これ全部か!?」
狼山先輩が、目を丸くする。傍らの遊ちゃんは相変わらず無表情だが、ぼーっと見上げているあたり、彼女もまた驚いているのかもしれない。
「妾のかつてのしもべの一人が、今島根県付近の海に住んでいてな。それで送ってきたのだ」
「――アンタ、それ、いわゆる密漁品じゃ……」
「安心しろ、許可は取った! らしい!」
「そこ重要だろ――仲良く手錠掛けられ横並びはごめんだぜ……?」
「と言うか呉葉ちんの知り合いだから、文字通り海に住んでるんだろ? 妖怪だろ? どう許可取るんだよ――」
「妾が知るわけないだろう。まあ、あいつは元々誠実で嘘をつかない性格だからな、信用してもいい、と、思う!」
「そう言う思わせぶりな言い方するからみんな不安になるんだよ!? だ、大丈夫です、こっちでも確認しましたから」
白い発泡スチロールの箱は3箱。中にはそれぞれ一匹ずつ、島根県産雄のズワイガニ――いわゆる松葉蟹が入っている。
「けどいいのかよ、一人一匹ずつ貰っちまって?」
「もってけもってけ。むしろ、ナマモノを貰いすぎて処理に困っているところだ。ご近所さんにも配り歩いているくらいでな」
「松葉蟹を?」
「うむ」
「何匹?」
「30はあったかな――」
「アンタやっぱりそれ密漁品じゃ――」
不安な声も上がったが、皆一匹ずつ持って帰ることに。保冷は今日丸一日持つので、一旦事務室の扉の外へ置いておくことになった。
「お、おはようございまぁす! 遅刻してしまいました、すみません」
「あっ、所長」
そこへ、頭髪の薄い男性が。そう、百々百々所長だ。
「ところで、外に保冷ボックスが三つも置いてあったのですが――なんでしょうかぁ?」
「――所長の分忘れてた」




