《第762話》『変わり目の風邪にご用心』
びゅうっと吹く、冷たい風一陣。外へ出た途端、僕は早朝の木枯らし一発に身をすくめさせられてしまった。
「ううっ、寒――っ」
「12月並みだとのことだ」
「――あれっ、秋ってあったっけ」
「樹木だけは秋の気分のようだが」
確かに、木々は紅葉している。が、その葉っぱは既に数少ない。
「もう冬支度に入ってるように見えるんだけど」
「一気に冷え始めたからな。大分大慌てだ」
ちなみに、うちは既に衣替えが終わっているぞ。と、呉葉は得意げに胸を張る。僕が今着ている衣服も、冬用のモノだ。
それでも、身体は季節の変化には追いつかない。風邪予防はしっかりしているつもりだが、免疫が落ちていることに変わりはないだろう。
「――何やら、まだまだ辛そうだな」
「そりゃあ、ホント急に気温が変わったからね――。一体、秋ってどこにあったんだろう、って言うくらいに。一か月前はまだ汗ばむ程じゃなかった?」
「朝はともかく、昼間はかき氷食っても冷えなかったからな」
「――それ、僕は凍えたんだけど」
「ともかく、寒々としたままではよくない」
「やんわり話逸らしたでしょ」
「一つ、出勤する前に妾が温まる話をしてやろう」
「え?」
そう言うと、呉葉はニヤリと笑う。
「一昨日一緒に入ったお風呂」
「!?」
言葉で言われることで、鮮明に思い出されてしまう呉葉の白い肌。凹凸は少なくともバランスよく整った綺麗な身体、密着する柔らかな肉体。
――誤解無いように言っておくが、僕が入ろうと言ったのではなく、呉葉が僕の入浴中に突撃してきたのだ。驚き恥ずかし、しかし抗う事の出来ない強引さ――。
否が応にも、僕の身体は照れで熱くなった。
どうってことないヒトにはどうってことないかもしれないが、僕にとってはどうってことなくない事件である。
「こうかは ばつぐんだ!」
「朝から何を思い出させるんだよもう!?」




